図面を描かない
さて、ここで設計者の手抜きには、いったいどのようなものがあるのかについて言及してみましょう。
大きく分けると、
(1)図面を描かない、
(2)施主の要望を開かない、
(3)設計監理をしない(現場を見に行かない)、
といった三つのパターンが挙げられます。
ここでは、まず(1)について見てみましょう。
最近はCADを使った設計が増えています。
昔のような手で一から描いていた時代に比べると、図面を描くスピードが随分速くなりました。
しかし、図面がデジタル化したからといっても、図面を描く手間はかかります。そうすると、いい加減な設計者はロクに図面を描きません。
図面には基本設計に必要な図面と、実施設計に必要な図面があります。
また、工事を始めるにあたって、図面などの書類を役所に提出しなければならないのですが、
このときに必要となる図面(申請図といいます)は平面図、立面図、断面図があれば十分です。
しかし、これだけでは家は建ちません。
実施設計図面とは工事に必要な図面で、これがないと現場では何もつくれません。
とはいえ、ここが日本の大工のスゴイところで、図面がなくても勝手に判断して、それなりにつくることができてしまったりします。
実施設計で必要な図面を列挙してみましょう。
●配置図・両積表
建物が敷地内のどこに建つのかを記したものです。配置図と併せて、「案内図」という現地を案内する地図も付けます。
●外部仕上げ表・内部仕上げ表・特記仕様書・メーカーリスト
一般的に「仕様書」と呼ばれるもので、建物のどの部分にどういった材料を使うかを具体的に指示したものです。
仕様書がなければ、どんな材料を使えばよいのか誰にも分かりません。
また、建主の希望により、メーカーの指定がある場合もありますので、指定をきちんと書いておかないと、業者の手に入りやすい製品に勝手に決められてしまいます。
仕上げに関して、「同等品とする」という一文が書かれていることがよくあります。
これは、A社の製品を考えているけれども、同じような製品のスペックが保てるのであれば、他社の類似製品でもよい、という指示です。
施工業者のメーカーとの付合いの加減で仕入れ値が大幅に変わってしまうことがあるため、このような指示をいれておく必要があるのです。
安く仕入れられるメーカーもあれば、付合いがないので高くなってしまうメーカーもあります。
どこのメーカーの製品を使ってもさほど変わりがない場合は、「安く仕入れられる」ために、施工業者に任せてしまうこともあります。
「同等品」と記すことは決して手抜きではありません。
ただし、同等品以下のものが入ってくる危険性があるので、最終的にどの製品を使うのかを設計者がちゃんと確認しなければ、手抜きにつながることもあり得ますが…。
●各階平面図
間取りなど、各階を平面で切って上から見た図面です。これを描かない設計者は、さすがにいないでしょう。
●屋根伏図
屋根の形を上から見たもので、屋根の勾配がどこで切り替わるのかをおおまかに説明した図面です。
以下にも出てきますが、「伏図」というのは、部材や材料の組合せを平面的に描いたものを指します。
●立面図
建物の外観を描いたものです。
●断面図
主に、室内を垂直に切って、断面を描いたものです。各部材の高さや位置関係を記しています。
●矩計図
断面図をさらに細かく描いたものです。建材をどのように組み合わせるか、その高さや位置関係を記しています。
これを描くには材料や工法のことを知っていないと、ちゃんとしたものが描けません。
設計者が描いたつもりでも、現場では「これじゃあ納まらないよ!」と陰口を叩かれていることもあったりします。
●基礎伏図
基礎コンクリートの形状を上から見たものです。アンカーボルトがくる位置や、基礎の断面形状などが記されています。
●土台伏図・各階床伏図・小屋伏図
土台や各階の床組、小屋組などを上から見たものです。
木造の場合、木材の寸法や継手の位置などを細かく描いて指示をする必要があるので、設計者の実務能力が表れる図面です。
●軸組図
木組の方法を指示したものです。
最近は平面図・断面図などをプレカット業者に出すと、自動的に軸祖国を描いてもらえるようになっているので、自分で描く設計者は減ってきているようです。
●展開図
室内の4両の壁面の様子を描いたものです。窓の位置や高さ、仕上げの切替え位置など、室内仕上げの内容を伝えます。
●天井伏図
天井を下から見上げた絵を描いたものです。
●建具表
ドアやサッシなど建具を正面から見た絵を並べた表です。
もちろん、平面図には建具表の番号と連動して、どこにどのドアが入るのかが記されています。
●各階電気設備図・器具表
電気の配線やコンセントボックスの位置などを記したものです。照明器具の位置と姿なども記します。
●給排水衛生設備図
給排水の配管を描いたものです。トイレや台所などと位置が整合していなければ、大変なことになります。
●詳細図
詳細図にはさまざまなものがあり、部材どうしがぶつかるところや仕上げが変わるところ、ドアの取り付くところなどについてミリ単位の数字を拾い、絵に描いて納め方を指示する図面です。
ところが、この詳細図の作成がとても面倒な作業なのです。
多く描けばよいというものではないのですが、まったく措かない設計者も増えているようです。この辺りが、設計者の入れ込み具合を顕著に表す図面ではないでしょうか。
描かない理由(言い訳?)にはいろいろあるようです。
「詳細図が多いと、施工業者の見積りが高くなってしまう」だとか、「描かなくても大工が勝手に納めてくれる」
などというのもあります。
以前は、こうした詳細図をきちんと措けることが設計者の誇りだったりしたのですが、最近はどうも違うようです。
「空間として捉えているから、細かいことは考える必要がない」
という意見も耳にします。
よい空間をつくりたいからこそ、細かいところも詰めるべきだと思っています。
たとえば、紙でサイコロをつくるとして、サイコロの糊しろをキレイに計画して真四角にきちっとできたものと、糊がはみ出していたり、下手をすると糊しろすらなく、セロテープでベ夕べタ留めてあって、形もいびつになっているものと、お金を出して買うならどちらがよいでしょうか。
当然、前者だと思います。
キレイにつくるために重要なのは、どうつくるかを考えることです。
つくる人にそれを伝えなければなりません。それが詳細図の役割なのです。これを怠るとどういう結果になるのか、それは読者の皆様の想像にお任せしましょう。
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