飽不要の造作材
今の大工さんは刃物が使えないといわれることがあります。
というのも、木造の建物でも、本物の木を使っているものは少なく、木を削る機会も少なくなってきているからです。
骨組みはプレカット、たまにある和室も、柱は削る必要のない節のない薄い木を貼り付けたもので、ドアの枠やそのほかの造作材も、すでに仕上がっているものか、木のくずを糊で固めたうえに表面に化粧のシートを貼り付けてできているものを取り付けるだけというケースが増えてきています。
そのため、鈎を使う必要がありません。
最近は、ムク材の「緑甲板」のことを「単層フローリング」と呼んでいます。
昔は、フローリングといえばムク材に決まっていたので、このような言い方はありませんでした。木を貼り合わせた「複合フローリング」が当たり前のように普及してきたために、本家の緑甲板がわざわざ単層フローリングという妙な名前を付けられるようになったのです。
しかも、このムク材の緑甲板でさえ、今では仕上げられた状態で現場に入ってくることが多いので、大工さんが鈍を使う必要はないのです。
実は、こういうことになったのも理由があります。
大工さんが加工しなくとも出来上がっている仕上げ材や造作材では、和室の天井と長押が早くから普及していました。
天井は幅広の木目も凝ったものが求められたため、原料となる太くて節のない木が必要とされます。
こうした木はもともと貴重品だったのですが、早くから枯渇してしまいました。
そこで、銘木といわれる数少ない木を効率よく製品として利用するために、合板を下地にして、突き板を表面に貼り付けた天井材が出てくるようになったのです。
長押は、昔は柱をつなぐ構造材だったのですが、時代が下がって形骸化し、和室の格を表現する記号となりました。
格を表現する部材ですから、その見かけは節がなくて木目が真っ直ぐに通った柾目のものが求められました。
これも、原木の希少化によって同じような製品が出回り、当たり前のように普及しました。
以前は、よい糊がなくて、薄く削いだ木の表面に糊が染み出して汚くなることもあったようです。
今は糊もよくなり、ごく薄く削いだ木でも表面はきれいになっています。
もちろん、今でも天井材や長押をムク材でつくることはできます。
ただし、一部屋の材料費だけで数百万円という破格の金額を用意しないと、本格的な材が入手できなくなってしまいました。
貴重な木材を薄く削いで使うことで、手頃な金額で本格的な和室の雰囲気をつくることができるようになったわけです。
部屋の格をいうなら、そのような材料、悪くいえば「贋物」でよいのだろうかと思いますし、銘木にこだわらずによい空間をつくる別の方法があるような気がしないでもないですが、ここではそれは置いておくことにしましょう。
ともかく、これ以降、ありとあらゆるものが合板などに木を貼り付けた贋物になってきました。
最近では、本物の木を削いだものさえ上等で、木の模様の印刷をしたシートを貼ったものが普及しています。
大工さんは、そうした既製品の造作材をカタログで選んで使うようになってきています。
ムク材だと木を選び、木目や色合いなどを気にしながら、材料1本1本の使う向きなどにまで気を遣うことが必要でした。
既製品はそうした作業も必要なく、メーカーに品番を指定するだけで、出来上がったものを現場まで搬入してもらえます。現場では余分に延びている竪枠の長さを切り詰めて調節し、取り付けるだけですむ簡単施工です。
ドアも枠材とセット品なので、建付けをあまり気にする必要もなくなりました。
しかし、表面にシートを貼った、いわば見栄えだけの材料なので、後で削ったりすることができないものがほとんどです。
表面のシートがはがれてしまうことがよくあるのですが、シートがちょっとはがれている程度なら、まだ糊で付けられるので問題ありません。はげ落ちてしまうと補修のしょうがありません。
表面のシートと芯材はまったく異質な材料なので、紙ヤスリもかけられないのです。
それなら、自分たちで造作材を加工すればよいのではと思われるでしょうが、手間と時間がかかることはしたくないので、結局、メーカーの既製品を使ってしまいます。出来上がりの一時的な見栄えされよければそれでよいし、万が一、シートがはがれてきても、同じものをメーカーから取り寄せて取り替えればよいと考えているのです。
そうしたわけで、大工さんも本物の木を扱う機会が少なく、いってみれば、建築部品の取付け屋のような感じになってきているのです。刃物が使えないといわれてしまうのも仕方のないことなのかもしれません。
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